【翻訳】看板としてのプレインズウォーカー、その問題点
2017年3月23日 翻訳 コメント (6)
みんな大好きMTGGoldfishより。クリーチャーのインフレは広く指摘されるようになった感がある一方、そこまで指摘されることのなかったPWの問題にMTGGoldfishのセス(SaffronOliveでお馴染み)が切り込みます。
ちなみにStarCityGames.comにてロス・メリアムが反論記事を書いています。参考までに。
以下訳
マジックが生まれてから約25年、その間に様々な変化があり、これからも間違いなく幾つもの変化が訪れるだろうが、ここ数年で最も大きな変化――新世界秩序や神話レアの導入、レジェンドルールの改訂、もしくは基本セットの終了よりも大きな変化――はプレインズウォーカー(以下PW)の誕生だろう。
現実を直視しよう。PWは心躍らせるものだ(った)。PWは今や全てのMTGセットにおける看板カードだ。ゲートウォッチ(以下GW)中心に物語が進められるようになって約2年経つし、次のアモンケットブロックでもほぼ確実にPWとしてのニコル・ボーラスに焦点が当てられるだろう。もちろん、これは必ずしも悪いということじゃない。PW疲れは懸念要素で、現に小さなPWグループがここ最近ほぼ毎回現れているからなおさらだ(リークされたアモンケットのアートによると、同じスタンダードプールで3枚の別のニッサが可能になるようで、これは今までなかったことだ(※訳者注:正確にはPWデッキ版を含めた4枚))。しかし特にウィザーズからすると、PWには大きな利点があるんだ。
現代の物語/ブランド先行型マジックにおいて、PWはストーリーに目的を与えてくれるという意味で非常に重要だ。実際、ウィザーズはマジックをスーパーヒーロー映画に変えようとしている(それともスーパー「フレンズ」映画と言うべきかな?)。僕らは多元世界を巡るジェイス-ティスリーグ(※ジャスティスリーグのもじり)の偉業を追わなければならなくなる――様々な悪役と戦い、ちょっと息抜きし、新しい友を作り、時には喧嘩をし、(残念ながら)間もなく恋に落ち、破局し、そしておそらく最終的にはMTG版ジェリー・スプリンガー・ショー(※超低俗ながらも高視聴率を叩き出しているトーク番組。番組の締めは皆舞台で暴れまくるのがお約束)的な終わり方になるだろう。冗談はさておき、継続して出るキャラクターというのは数セット、数ブロック、数年をまたがったストーリーを扱う際にとても助けになる。というのもプレイヤー(もしくは読者や視聴者)は既にキャラクターを知っているし、親しみさえ覚えているだろうからね。
既に指摘したように、同じ顔触れを何度も何度も出されることによって人々が飽きてしまうというリスクがあり、実際GWへの不満は度々聞くことがあるが、まだそこまで危険な領域には達していない。しかし少なくとも今回、僕はPWのストーリー面での問題を大々的に取り上げるつもりはないよ。勿論ウィザーズにとってPWがいかに重要か――その重要性はストーリーとブランディングに基づいたものだ――を理解することは今回の話の前提になってはいるんだけれども、今回の主題はPWがゲームプレイに与えた影響だ。物語面での影響はあくまでも二次的なものってことだね。個人的にはGWの終わりのないストーリーは大好きではないんだけど、それは僕個人の感想であって、それを好きな人が沢山いるってことは勿論分かってるよ。一方でGWと近年のセットで強力なPWが増えているということはスタンダードで特に顕著にゲームプレイが詰まらない大きな理由の一つだと思っている。
セット販売の顔としてのプレインズウォーカー
新しいセットを売るためにウィザーズがよくやるのは何枚かの強力なカードを「看板カード」として推すやり方だ。これは別に悪いことじゃないし、実に理にかなった方法だ。それを聞いてタルキール覇王譚でフェッチランドが看板だったじゃないかとか、基本セット2010では《悪斬の天使》がそうだったじゃなかとか、色々言う人がいるかもしれない。しかしここ数年、ウィザーズがPWを各セットの看板カードにしようとする完璧な影響力の嵐を僕らは目撃したわけだ(例外は『異界月』の看板《約束された終末、エムラクール》くらいだ)。
以下が大まかな流れだ:ハスブロ社(※全米第二位の玩具メーカーでありウィザーズの株主)はMTGをトランスフォーマーやX-MENのようなフランチャイズにしたかった。これを実現するには、MTGには継続的に出るキャラクターが必要だ。そして当然の選択としてPWが選ばれた。そんなわけで、『Magic Story -未踏世界の物語-』は主にPW達(GWのような)に焦点を当てるようになったのだ。しかしこの計画を機能させるに、PWには二つの要素が必要だった。一つはPWはセットの主な焦点及びセールスポイントである必要があるということ。二つ目はPWは強力でなければならないということ――プレイヤーがFNMやカバレージで見かけるように、最低でもスタンダード級の強さが求められる。もしたまたま超強力になって、必ず目にするレベルであればさらに良い。
最近のスタンダードのセットをちょっと振り返ってみようか。『戦乱のゼンディカー』の看板PWは、恐らく今現在スタンダードで最も強力なカードであり、スタンダードで最もプレイされているカードトップ10にも入る《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だ。『ゲートウォッチの誓い』の看板は、今はちょっと下火だが、去年のベストデッキの一つ(緑白トークン)で重要な役割を果たしていた《ゼンディカーの代言者、ニッサ》。『イニストラードを覆う影』は緑黒昂揚の必須パーツとして《約束された終末、エムラクール》を禁止に至らせる手助けをした《最後の望み、リリアナ》だろう。『異界月』は例外(《約束された終末、エムラクール》がセットの顔だったが、良い幕切れとはいかなかった)。そして『カラデシュ』には《反逆の先導者、チャンドラ》(現在スタンダードで使われているカードトップ10の一つ)と《サヒーリ・ライ》(厳密には看板PWではないが、無能がなせる奇妙な巡り合わせ、もしくは偶然によって。同じくトップ10カードの一つ)がある。最後に、《策謀家テゼレット》が『霊気紛争』の顔だ。
この看板PWリストはスタンダードにおける最良のカードたちの名士録のようだ。あまりにも強力過ぎて禁止されたものもあれば(《約束された終末、エムラクール》)、2つはこの前の禁止改訂の短いリストに載っていたし(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《サヒーリ・ライ》)、残りも(《策謀家テゼレット》を除けば)何かしらの期間においてはスタンダードでのトップ5カードだった。重要なのは、ウィザーズはセットを売るためだけにPWを使っているのではなく、これらのカードがスタンダードにおいて、とても強力と壊れの間のパワーになるように最大限推し進めているということだ。
看板プレインズウォーカーとゲームプレイ
このように猛プッシュされるPWが物語の推進剤として、またセットを売るためには間違いなく良いものである一方、幾つかの理由によってゲームプレイにおいては非常に問題がある。その理由を理解する前に、まずはゲームプレイにおいてPWが何たるかを確認しておく必要があるだろう。フレイバーやストーリーとは関係なく、PWは何度も起動できる、分割カードとパーマネントのある種奇妙な合成のようなデザインをされている(アーティファクトやエンチャントのように)。結果として、PWは本質及びデザインの時点でカードアドバンテージを生み出し続けるエンジンになっているんだ。たとえ実際カードを引かせるということがなくても、毎ターン能力を起動できるからね。分割カードの面はPWの複数の能力に当てはまる。僕らがここ数年で見ることになった多くの強力なPWは防御に素晴らしい働きをする(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の2/2トークンは毎ターンチャンプブロックさせてくれる)だけでなく、攻撃でも素晴らしい働きをし(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はたった4マナで5/5破壊不能のアタッカーになる)、デッキを安定させ、プレイヤーを延命し、さらにはゲームを終わらせることもできる。これにより、多くのPWがマジックのカードにおいて稀少なグループ――劣勢の時も、優勢で勝ちに繋がるカードを探している時も、両方においてベストなカード――に分類されているわけだ。
おそらく最も明白なPWの問題は、それらはあまりに他のカードより優れているが故に、プレイアブルなカードの数を極端に損なわせているということだ。例えば、《反逆の先導者、チャンドラ》を見てみよう。彼女は最悪でも「4マナ4ダメージに少しのライフゲインがつく」これは絶対に得られる最低ラインだ。逆に彼女の天井は(他のPWにも言えることだが)「ゲームに勝つ」だ(《反逆の先導者、チャンドラ》の場合、+1でのダメージとドローに始まり、最終的には奥義でその過程を加速させるだろう)。一方で、《集団的抵抗》は本当に、本当に強力なマジックのカードで、クリーチャーに4点のダメージを与えるだけでなく、もしマナがあれば相手プレイヤーにダメージを与えられ、さらに《意外な授かり物》のようにいらない手札を入れ替えることも出来る。問題は《集団的抵抗》は大抵《反逆の先導者、チャンドラ》より劣っているので、誰もプレイしないということだ。もし君が《集団的抵抗》を使っているなら、それは間違いだ。なぜなら《反逆の先導者、チャンドラ》の方がはるかに強力だから。これは他のPWにも同じようなことが言える。もし君が素早く相手を殴り倒すプランを採用していて、かつ白を使っているのなら、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を使わずに《折れた刃、ギセラ》や《大天使アヴァシン》を使うということはあり得ない。要するにPWはそれに本来備わっているカードパワーによって、スタンダードの他のカードを押しのけてしまうのだ。そしてこの問題は、スタンダードのゲームプレイと関係のない目的のためにPWが意図的にプッシュされることで、さらに膨れ上がる。
多様性を狭める以外にも、PWは他にも大きな影響をゲームにもたらしている。PWは全てを中マナ域に偏った戦略を推し進めがちなのだ。スタンダードの競技用デッキを組もうとした時、そのフォーマットにおいて最も強力なカードを使わないというのは非常に難しい。ブライアン・デマースが数日前にChannelFireballの記事で指摘したように(拙訳http://enokitake.diarynote.jp/201703172305397824/)、僕らはアグロ/ミッドレンジ/コントロールではなく、攻撃的なミッドレンジ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)や、純粋なミッドレンジ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)、そしてコントロール寄りのミッドレンジ(これまた《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)に辿り着くわけだ。
ミッドレンジからミッドレンジへと移り変わる過去数セットのスタンダードのメタゲームの原因はPWだけというわけではない。全体除去やバーンスペルのマナコストは上がり、除去も同じように続き、そして皮肉にもこれらの他の変化がPW問題を更に悪化させているのだ。もし《稲妻》がスタンダードにあれば、《反逆の先導者、チャンドラ》を思考停止で最適な除去と見做すわけにはいかないだろう。そして更にはPWのない赤いデッキを組むことだって可能かもしれない。
最後に、これは万人に当てはまるわけではないかもしれないが、猛列にプッシュされ、絶対プレイしなければならないPWが毎セット存在するということは、限られた予算で競おうとするプレイヤーにとってスタンダードを高価なものにしてしまう。もし君がBudget Magicシリーズ(https://www.mtggoldfish.com/series/budget-magic)をチェックしてくれているのなら、プレイしたデッキのアップグレード版を毎週投稿しているのは知っていると思う。意外じゃないと思うけど、今のところスタンダードのデッキを「アップグレード」する最も一般的な方法は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のようなPWを足すことなんだ。大抵、それは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がデッキのテーマにあっているとかシナジーがあるというわけじゃなく、ただ単にギデオンがあまりに強力なので、ギデオン抜きの白いデッキという時点で、ギデオン入りより弱くなっているからなんだ。
かつてウィザーズは神話レアは推したい構築用カードのためでも、そのセットでの最高のカードが上から選ばれるようなものでもないと言った。まあ、ストーリーと売り上げのためにPWを推していく新しい方針下では、各セット少なくとも一つの、競技レベルの構築がしたければ「絶対に入手しなければならない」カード専用の、神話レア枠を拵えることになる。そしてセットによっては複数の推しPWがいるわけで、最終的には更なる神話レア枠が構築で必須のカード専用枠になるだろう。それはつまり更なる超高額カード(マスターピース制度が設けられた以上、神話は印刷される中で唯一重要な価値を維持できるカードだ)の増加を意味し、それは代わりに、スタンダードで競技的でありたいならプレイヤーは多くの資金を溢れんばかりの神話レアのために費やさなければならないということを意味する。
公平に言えば、僕はPWがゲームプレイに与えた良い影響についても書きたかったんだけど、どうしても良い答えが思い浮かばないんだ。PWは確かに楽しいものである一方で、その楽しいPWは明らかに構築用に調整された看板PWではないんだ。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を形容するあらゆる形容詞の中には、「楽しい」は含まれていない。実際、僅かにパワーを落とされたPWの方が遥かに楽しいんだ。倒されやすく、時には面白い動きをするゲームプレイを体験できるだけでなく、《滞留者ヴェンセール》を入れるか《リリアナ・ヴェス》を入れるかといった選択とジレンマをデッキビルドで味わえるからね。「どちらが先に《サヒーリ・ライ》を引いたか?」に帰着するゲームは楽しくない。「《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を倒すための数少ない回答札の一つを持っているか?」でゲームが決まるのも楽しくない。つまりPWは楽しい存在になれるが、極めて強力なPWはほぼ確実に楽しくはなれないのだ。そして最近は(既に述べた理由により)僕らはもっともっと超強力なPWを目にしている。
解決策
PW問題への解決策に入る前に、いくつかの選択肢は既に利用不可能なのではないかという前提に触れるべきかもしれない。例えば、セールスポイントであり推しカードでもある「看板PW」を取り除けば問題は解決するかもしれないが、ウィザーズがその案を受け入れるとは考えにくい。良くも悪くも、ウィザーズにはマジックをX-MENやトランスフォーマーのようなフランチャイズにする計画があり、この計画には各セットに最も重要なカードとしてのPWがあることが不可欠なんだ。PWがゲームプレイに悪影響を与えないようにするために、ウィザーズが包括的目標を巻き戻すなんてことはないだろう。また、これは特定のPWにだけ当てはまる話じゃない。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を少し弱くするのにそこまで意味はない。なぜなら僕たちが持ち合わせている情報を統合すると、これからも当分の間は看板PWの大行進は続くだろうからね。なので個別のPWを「手直し」しても、ウィザーズはマーケティング及びセット販売のためにPWを推し進める必要があるという根本的な問題は何も解決しないわけだ。
もう一つの前置きとして、PWを神話レアから単なるレアに降格するというのがあり、確かにこれは価格を抑えてはくれる(良いことと言える)だろうけど、それはPWがゲームプレイにもたらしている問題に関しては何の影響もないんだ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がレアになってもその強力さや詰まらなさは神話の時と何も変わらない)。しかし実現可能な解決策がないわけではないんだ。
その1:プレインズウォーカーを「少し」弱くする
そうそう、前の章で言い忘れたんだけど、PWを弱くするのも同様に現実的な解決策とは言い難い。というのも、ブランド及びマーケティング目標を達成するために、PWはプレイされ見かけるようにならないといけないからね。しかしながら僕は、PWがあまりに強力過ぎてウィザーズのストーリー/マーケティング目標を助けるのではなく、害するようになる転換点があると信じている。人々がFNMやグランプリ/SCGのカバレージで看板PWを見るようにするというのはウィザーズにとって素晴らしいことかもしれないが、一方であまりに多く目にする機会があると、プレイヤーはそういったPWカードを嫌いになり(もしくはカバレージを読むのをやめFNMに皆行かなくなる)、それはウィザーズが望むところではないだろう。なので、ウィザーズはPW開発に関して、単に高みを狙い過ぎているのかもしれない。「明らかに疑いの余地なくスタンダードの定番」を目指した結果、最終的に息苦しく多様性のない醜い化け物のようなメタに辿り着くのではなく、おそらく目指すべきは「スタンダードでプレイアブル」なのではないだろうか。そうすればカードが多少強すぎたりしても、それは壊れではなくスタンダードの定番になる程度で済む。やはりウィザーズは今一度ストーリーや販売目標を達成するためにPWが――たとえ看板PWであっても――壊れているほど強力である必要はないという事実を受け入れる必要がある。
その2:恒常的なプレインズウォーカーヘイトカードを
スタンダードに対応カードを戻すことについて色々書きたい気分だよ――多分やり過ぎなくらい。特にウィザーズが脅威と対策の振り子が脅威の方に傾き過ぎているから、それを戻すべきだと気付いたと表明したことを考えるとね。しかし今回は少々事情が異なる。普通の「脅威が強すぎて回答が弱すぎる」という主張ではなく、スタンダードに常に特定の回答札があるように、という嘆願だ。ウィザーズは別にPW中心のストーリーを変更したりPWを著しく弱体化させるつもりはないだろうから、最も簡単なPW問題の解決策は、常にPW(マジックにおいて最も強力なカードタイプ)に対処できるカードがスタンダードにあるようにすることだ。
現在のスタンダードにおけるPW問題は通常よりもはるかに酷い。なぜならPWへの回答がマジックの歴史上類を見ない程弱いんだ。火力呪文は2マナ(のソーサリー)なのに3点しか与えられず、《破滅の道》も同様にソーサリーだ。優良火力呪文(赤がPWに対処するには良い選択肢だ)や《英雄の破滅》を戻せば部分的な解決策にはなりえるだろうが、PWは現在あまりも大きな役割をゲームプレイにおいて果たしているため、特定の色だけに少しの対策を与えるだけでは十分に改善されたとは言い難い(例えば《英雄の破滅》だけでは、黒を使わなければ《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を倒せなくなるというだけで、デッキ構築の制約が加わったに過ぎない)。
本当に必要なのは、強力でかつ無色の回答が常にスタンダードにあるようにすることだ(「どうやって」そういったカードをスタンダードに常駐させるかは、基本セットが終了したので、少々込み入っているが、《否認》のことを考えれば不可能ではないだろう)。個人的にはスタンダードに《真髄の針》を戻す案に賛成したいが、ウィザーズは(特定のメカニズムを支援するために)この類の能力は避けたいんじゃないかと思う。だからPWしか指定できない《真髄の針》ならどうだろう?「カード名を1つ指定する」の代わりに「プレインズウォーカー・カードを1つ指定する」にする以外は文字通り全部同じテキストでね
PWにはまだまだ手を付けられていないデザイン領域があるから、それを変える必要がある。もしウィザーズがこれからもPWを最重要カードとしてプッシュしていくつもりなら、同時に「プレインズウォーカー」を対象に取れる《飛行機械による拘束》や《停滞の罠》のようなカードや、PWも一緒に流せる全体除去も増やすべきだ。もしくは、適切なマナコストで「もしプレイヤーがプレインズウォーカーの忠誠カウンターを加えるならば、代わりにそれと同じ数の忠誠値カウンターを取り除く」みたいな効果の黒エンチャントなんてどうだろう?基本的に僕らはPWの「強い」面ばかり見てきたし皆それの凄まじい性能については嫌と言うほど分かっていると思うが、同様に「弱い」面にについても目を向ける必要がある。他のカードタイプは全部、面白くかつ十分な回答があるわけで、PWも同じであるべきだ。
その3:プレインズウォーカーの数を減らせ
『戦乱のゼンディカー』はストーリーをほぼ独占的にPWに焦点を合わせて MTGの物語に大きな変化をもたらしただけでなく、目にするPWの数を一気に増やした。『アラーラの断片』から『タルキール』ブロックまでは、大型エキスパンションには平均2.45人のPWがいた。もし『アラーラの断片』を除外すれば(『アラーラの断片』には諸事情により4人ものPWが収録されている)、平均2.3人まで落ちる。一方で、小エキスパンションの平均PWは1人未満となる(ほぼ全ての小セットにはきっかり1人PWが収録されているが、『アラーラ再誕』だけは1人もいないため)。『戦乱のゼンディカー』からの大エキスパンションのPW平均は4人で、小エキスパンションは2人だ。各セットの数が約2倍に膨れ上がっているわけだから、大きく増加していると言っていいだろう。さらにこれは『プレインズウォーカーデッキ』のPWはカウントしていないので、正確にはさらに多いことになる。
これほどにPWが多いとキャラクターやカードとしての特別感が損なわれるし、実際ゲームプレイにおいては既に起こっている。PWを初めて見た時はとてつもなくワクワクしたし、PWとの蜜月はその後数年続いたんだが、単に毎年多くのPWを出したというだけの理由で、今やすっかり輝きを失ってしまった。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のように猛烈にプッシュされているPWでさえ、『ローウィン』の《ジェイス・ベレレン》や《野生語りのガラク》ほどにはワクワクしない。
理想を言えば、ウィザーズはPWの印刷数を『戦乱のゼンディカー』前のレベルまで落とすべきだろう(大セットに2人、小セットに1人)。こうすればスタンダードがPWで溢れるようなことは避けられるだろうし、もしかしたらPWをまたワクワクさせてくれるカードタイプに戻せるかもしれない。
その4:使い道が限定されたプレインズウォーカーを作れ
これが最も実装される可能性が高い解決策かもしれない(勿論今回提示した解決策全てが採用されれば最高だけどね)。ウィザーズはゲームプレイとは関係のない理由によって強力なPWを刷る必要があるということは既に述べたね。これから述べることは矛盾してるように思えるかもしれないけど、強力なPWは必ずしも悪いことではないかもしれない。看板PWの多くに当てはまる問題点は、そのPWをキャストできるデッキなら漏れなく強力な働きをするということだ。《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、《反逆の先導者、チャンドラ》のようなカードは、色さえ合っていればアグロ、ミッドレンジ、そしてコントロールといった全てのデッキにとってベストなカードだという主張になんらおかしいところがない。この幅広い使い方ができる性能は、至る所でPWを見かけるようにしているだけでなく、これまでに語ってきた多くの問題――PWでなく他のカードをプレイするのが間違っている――に結び付く。
他方で僕らは、とても強力であるにもかかわらず特定のアーキタイプでしか輝かないPWがいることも知っている。《ボーラスの工作員、テゼレット》は最高の例だ。ざっと目を通しただけでもそれが非常に強力だと分かるだろう。しかし本当にそれの力を引き出すためには、多くのアーティファクトを擁した専用のデッキが必要になる。少なくとも《守護フェリダー》が来るまでは《サヒーリ・ライ》も似たようなものだった。多くのデッキがサヒーリには目もくれなかったが、特定のシナジー(《太陽のタイタン》のような)があれば《サヒーリ・ライ》はとても良いカードだった。これは《滞留者ヴェンセール》(ブリンク)や、《野生語りのガラク》(ランプ)、《群れの統率者アジャニ》(アグロ)、そして《悪夢の織り手、アショク》(コントロール)にも当てはまる。これらのPWは全て(紹介しきれなかった幾つかの他のPWも)、10点満点中8点のパワーはあるが特定のアーキタイプでしかその力を発揮しないんだ。なのでこれらのPWは環境を息苦しくしないし、スタンダードを歪めることもないし、使っても使われても楽しいんだ。これは僕ら全てのプレイヤーにとって良いことだ。加えて、カードパワーは十分なわけだから、こういったPWもまだウィザーズのスタンダードの収録基準を満たしているんだ。
結論
良くても悪くてもPWは今ここにいるわけだ。ウィザーズはマジックを一ゲームからフランチャイズブランドに変化させるためには、PWが最良と信じているわけだから、どちらかといえば、今後数年PWはますます重要になっていくと僕らは考えるべきだろう。古参はこの変化を嘆くだろうが(僕も時々そうなる)、ウィザーズからすれば全くもって合理的だし、ゲームプレイ外の目標を達成するには明確に最良な方法でもある。
なのでウィザーズにはPWを正しく扱うこと求められている。僕らプレイヤーにとってこれが如何に重要かはこれまで述べてきたが、同時にウィザーズにとっても重要であるわけだ。最終的に顧客の大部分が、ウィザーズにとっての最重要キャラクターを嫌いになってしまえば、目的達成の真逆をやっていることになるわけだからね。ありがたいことに妥協点はある。ウィザーズが、スタンダードと実際のゲーム体験を破壊することなくセット売ったり、映画を製作するために強力なPWを刷り続けることは可能だ。(今一度思い出してほしい。ゲームプレイはMTGというブランドの根幹だ。マジックが楽しくなくプレイに耐えるものでなければ、だれも気にかける者がいなくなり、映画もTシャツも物語もその他もろもろ全部お釈迦だ)。単にPWを飽きさせないためにPW全体の数を減らしたり、PWに干渉できる方法を増やしたり(これがスタンダードに常にあるということも重要だ)、PWを色が合えば即採用されるような使い道の広い強力なカードから、特定のデッキじゃないと上手く扱えないように使い道は制限されているが条件が合えば依然として強力なデザインにしたりすればいいんだ。
ともあれ、今回はこれで終わりだ。君はどう思った?PWが好き?PWは未だにワクワクするカードタイプかな?それともPW疲れを経験済み?PWの数についてはどう思う?カードパワーは?もしPWに問題があると思うなら、僕らプレイヤーのみならずウィザーズも満足させられるような他の解決策は何かあるだろうか?(PWを消去したり、レアやアンコモンに降格したり、PWの価値を下げるためにストーリーを変更したりしても、ウィザーズからすれば考慮するに値しないんだ。僕らの意見が真面目に受け止められるようにするためには、批判やフィードバックを送る際には、僕らはウィザーズの目指しているところを考慮しなきゃいけない。)是非コメント欄で教えてほしい。もちろんいつものように、Twitter @SaffronOlive もしくはSaffronOlive@MTGGoldfish.comに送ってくれても構わないよ。
翻訳終わり
ちなみにStarCityGames.comにてロス・メリアムが反論記事を書いています。参考までに。
原文:The "Face-walker" Problem by SaffronOlive
https://www.mtggoldfish.com/articles/the-face-walker-problem
以下訳
マジックが生まれてから約25年、その間に様々な変化があり、これからも間違いなく幾つもの変化が訪れるだろうが、ここ数年で最も大きな変化――新世界秩序や神話レアの導入、レジェンドルールの改訂、もしくは基本セットの終了よりも大きな変化――はプレインズウォーカー(以下PW)の誕生だろう。
現実を直視しよう。PWは心躍らせるものだ(った)。PWは今や全てのMTGセットにおける看板カードだ。ゲートウォッチ(以下GW)中心に物語が進められるようになって約2年経つし、次のアモンケットブロックでもほぼ確実にPWとしてのニコル・ボーラスに焦点が当てられるだろう。もちろん、これは必ずしも悪いということじゃない。PW疲れは懸念要素で、現に小さなPWグループがここ最近ほぼ毎回現れているからなおさらだ(リークされたアモンケットのアートによると、同じスタンダードプールで3枚の別のニッサが可能になるようで、これは今までなかったことだ(※訳者注:正確にはPWデッキ版を含めた4枚))。しかし特にウィザーズからすると、PWには大きな利点があるんだ。
現代の物語/ブランド先行型マジックにおいて、PWはストーリーに目的を与えてくれるという意味で非常に重要だ。実際、ウィザーズはマジックをスーパーヒーロー映画に変えようとしている(それともスーパー「フレンズ」映画と言うべきかな?)。僕らは多元世界を巡るジェイス-ティスリーグ(※ジャスティスリーグのもじり)の偉業を追わなければならなくなる――様々な悪役と戦い、ちょっと息抜きし、新しい友を作り、時には喧嘩をし、(残念ながら)間もなく恋に落ち、破局し、そしておそらく最終的にはMTG版ジェリー・スプリンガー・ショー(※超低俗ながらも高視聴率を叩き出しているトーク番組。番組の締めは皆舞台で暴れまくるのがお約束)的な終わり方になるだろう。冗談はさておき、継続して出るキャラクターというのは数セット、数ブロック、数年をまたがったストーリーを扱う際にとても助けになる。というのもプレイヤー(もしくは読者や視聴者)は既にキャラクターを知っているし、親しみさえ覚えているだろうからね。
既に指摘したように、同じ顔触れを何度も何度も出されることによって人々が飽きてしまうというリスクがあり、実際GWへの不満は度々聞くことがあるが、まだそこまで危険な領域には達していない。しかし少なくとも今回、僕はPWのストーリー面での問題を大々的に取り上げるつもりはないよ。勿論ウィザーズにとってPWがいかに重要か――その重要性はストーリーとブランディングに基づいたものだ――を理解することは今回の話の前提になってはいるんだけれども、今回の主題はPWがゲームプレイに与えた影響だ。物語面での影響はあくまでも二次的なものってことだね。個人的にはGWの終わりのないストーリーは大好きではないんだけど、それは僕個人の感想であって、それを好きな人が沢山いるってことは勿論分かってるよ。一方でGWと近年のセットで強力なPWが増えているということはスタンダードで特に顕著にゲームプレイが詰まらない大きな理由の一つだと思っている。
セット販売の顔としてのプレインズウォーカー
新しいセットを売るためにウィザーズがよくやるのは何枚かの強力なカードを「看板カード」として推すやり方だ。これは別に悪いことじゃないし、実に理にかなった方法だ。それを聞いてタルキール覇王譚でフェッチランドが看板だったじゃないかとか、基本セット2010では《悪斬の天使》がそうだったじゃなかとか、色々言う人がいるかもしれない。しかしここ数年、ウィザーズがPWを各セットの看板カードにしようとする完璧な影響力の嵐を僕らは目撃したわけだ(例外は『異界月』の看板《約束された終末、エムラクール》くらいだ)。
以下が大まかな流れだ:ハスブロ社(※全米第二位の玩具メーカーでありウィザーズの株主)はMTGをトランスフォーマーやX-MENのようなフランチャイズにしたかった。これを実現するには、MTGには継続的に出るキャラクターが必要だ。そして当然の選択としてPWが選ばれた。そんなわけで、『Magic Story -未踏世界の物語-』は主にPW達(GWのような)に焦点を当てるようになったのだ。しかしこの計画を機能させるに、PWには二つの要素が必要だった。一つはPWはセットの主な焦点及びセールスポイントである必要があるということ。二つ目はPWは強力でなければならないということ――プレイヤーがFNMやカバレージで見かけるように、最低でもスタンダード級の強さが求められる。もしたまたま超強力になって、必ず目にするレベルであればさらに良い。
最近のスタンダードのセットをちょっと振り返ってみようか。『戦乱のゼンディカー』の看板PWは、恐らく今現在スタンダードで最も強力なカードであり、スタンダードで最もプレイされているカードトップ10にも入る《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だ。『ゲートウォッチの誓い』の看板は、今はちょっと下火だが、去年のベストデッキの一つ(緑白トークン)で重要な役割を果たしていた《ゼンディカーの代言者、ニッサ》。『イニストラードを覆う影』は緑黒昂揚の必須パーツとして《約束された終末、エムラクール》を禁止に至らせる手助けをした《最後の望み、リリアナ》だろう。『異界月』は例外(《約束された終末、エムラクール》がセットの顔だったが、良い幕切れとはいかなかった)。そして『カラデシュ』には《反逆の先導者、チャンドラ》(現在スタンダードで使われているカードトップ10の一つ)と《サヒーリ・ライ》(厳密には看板PWではないが、無能がなせる奇妙な巡り合わせ、もしくは偶然によって。同じくトップ10カードの一つ)がある。最後に、《策謀家テゼレット》が『霊気紛争』の顔だ。
この看板PWリストはスタンダードにおける最良のカードたちの名士録のようだ。あまりにも強力過ぎて禁止されたものもあれば(《約束された終末、エムラクール》)、2つはこの前の禁止改訂の短いリストに載っていたし(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《サヒーリ・ライ》)、残りも(《策謀家テゼレット》を除けば)何かしらの期間においてはスタンダードでのトップ5カードだった。重要なのは、ウィザーズはセットを売るためだけにPWを使っているのではなく、これらのカードがスタンダードにおいて、とても強力と壊れの間のパワーになるように最大限推し進めているということだ。
看板プレインズウォーカーとゲームプレイ
このように猛プッシュされるPWが物語の推進剤として、またセットを売るためには間違いなく良いものである一方、幾つかの理由によってゲームプレイにおいては非常に問題がある。その理由を理解する前に、まずはゲームプレイにおいてPWが何たるかを確認しておく必要があるだろう。フレイバーやストーリーとは関係なく、PWは何度も起動できる、分割カードとパーマネントのある種奇妙な合成のようなデザインをされている(アーティファクトやエンチャントのように)。結果として、PWは本質及びデザインの時点でカードアドバンテージを生み出し続けるエンジンになっているんだ。たとえ実際カードを引かせるということがなくても、毎ターン能力を起動できるからね。分割カードの面はPWの複数の能力に当てはまる。僕らがここ数年で見ることになった多くの強力なPWは防御に素晴らしい働きをする(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の2/2トークンは毎ターンチャンプブロックさせてくれる)だけでなく、攻撃でも素晴らしい働きをし(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はたった4マナで5/5破壊不能のアタッカーになる)、デッキを安定させ、プレイヤーを延命し、さらにはゲームを終わらせることもできる。これにより、多くのPWがマジックのカードにおいて稀少なグループ――劣勢の時も、優勢で勝ちに繋がるカードを探している時も、両方においてベストなカード――に分類されているわけだ。
おそらく最も明白なPWの問題は、それらはあまりに他のカードより優れているが故に、プレイアブルなカードの数を極端に損なわせているということだ。例えば、《反逆の先導者、チャンドラ》を見てみよう。彼女は最悪でも「4マナ4ダメージに少しのライフゲインがつく」これは絶対に得られる最低ラインだ。逆に彼女の天井は(他のPWにも言えることだが)「ゲームに勝つ」だ(《反逆の先導者、チャンドラ》の場合、+1でのダメージとドローに始まり、最終的には奥義でその過程を加速させるだろう)。一方で、《集団的抵抗》は本当に、本当に強力なマジックのカードで、クリーチャーに4点のダメージを与えるだけでなく、もしマナがあれば相手プレイヤーにダメージを与えられ、さらに《意外な授かり物》のようにいらない手札を入れ替えることも出来る。問題は《集団的抵抗》は大抵《反逆の先導者、チャンドラ》より劣っているので、誰もプレイしないということだ。もし君が《集団的抵抗》を使っているなら、それは間違いだ。なぜなら《反逆の先導者、チャンドラ》の方がはるかに強力だから。これは他のPWにも同じようなことが言える。もし君が素早く相手を殴り倒すプランを採用していて、かつ白を使っているのなら、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を使わずに《折れた刃、ギセラ》や《大天使アヴァシン》を使うということはあり得ない。要するにPWはそれに本来備わっているカードパワーによって、スタンダードの他のカードを押しのけてしまうのだ。そしてこの問題は、スタンダードのゲームプレイと関係のない目的のためにPWが意図的にプッシュされることで、さらに膨れ上がる。
多様性を狭める以外にも、PWは他にも大きな影響をゲームにもたらしている。PWは全てを中マナ域に偏った戦略を推し進めがちなのだ。スタンダードの競技用デッキを組もうとした時、そのフォーマットにおいて最も強力なカードを使わないというのは非常に難しい。ブライアン・デマースが数日前にChannelFireballの記事で指摘したように(拙訳http://enokitake.diarynote.jp/201703172305397824/)、僕らはアグロ/ミッドレンジ/コントロールではなく、攻撃的なミッドレンジ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)や、純粋なミッドレンジ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)、そしてコントロール寄りのミッドレンジ(これまた《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》入り)に辿り着くわけだ。
ミッドレンジからミッドレンジへと移り変わる過去数セットのスタンダードのメタゲームの原因はPWだけというわけではない。全体除去やバーンスペルのマナコストは上がり、除去も同じように続き、そして皮肉にもこれらの他の変化がPW問題を更に悪化させているのだ。もし《稲妻》がスタンダードにあれば、《反逆の先導者、チャンドラ》を思考停止で最適な除去と見做すわけにはいかないだろう。そして更にはPWのない赤いデッキを組むことだって可能かもしれない。
最後に、これは万人に当てはまるわけではないかもしれないが、猛列にプッシュされ、絶対プレイしなければならないPWが毎セット存在するということは、限られた予算で競おうとするプレイヤーにとってスタンダードを高価なものにしてしまう。もし君がBudget Magicシリーズ(https://www.mtggoldfish.com/series/budget-magic)をチェックしてくれているのなら、プレイしたデッキのアップグレード版を毎週投稿しているのは知っていると思う。意外じゃないと思うけど、今のところスタンダードのデッキを「アップグレード」する最も一般的な方法は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のようなPWを足すことなんだ。大抵、それは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がデッキのテーマにあっているとかシナジーがあるというわけじゃなく、ただ単にギデオンがあまりに強力なので、ギデオン抜きの白いデッキという時点で、ギデオン入りより弱くなっているからなんだ。
かつてウィザーズは神話レアは推したい構築用カードのためでも、そのセットでの最高のカードが上から選ばれるようなものでもないと言った。まあ、ストーリーと売り上げのためにPWを推していく新しい方針下では、各セット少なくとも一つの、競技レベルの構築がしたければ「絶対に入手しなければならない」カード専用の、神話レア枠を拵えることになる。そしてセットによっては複数の推しPWがいるわけで、最終的には更なる神話レア枠が構築で必須のカード専用枠になるだろう。それはつまり更なる超高額カード(マスターピース制度が設けられた以上、神話は印刷される中で唯一重要な価値を維持できるカードだ)の増加を意味し、それは代わりに、スタンダードで競技的でありたいならプレイヤーは多くの資金を溢れんばかりの神話レアのために費やさなければならないということを意味する。
公平に言えば、僕はPWがゲームプレイに与えた良い影響についても書きたかったんだけど、どうしても良い答えが思い浮かばないんだ。PWは確かに楽しいものである一方で、その楽しいPWは明らかに構築用に調整された看板PWではないんだ。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を形容するあらゆる形容詞の中には、「楽しい」は含まれていない。実際、僅かにパワーを落とされたPWの方が遥かに楽しいんだ。倒されやすく、時には面白い動きをするゲームプレイを体験できるだけでなく、《滞留者ヴェンセール》を入れるか《リリアナ・ヴェス》を入れるかといった選択とジレンマをデッキビルドで味わえるからね。「どちらが先に《サヒーリ・ライ》を引いたか?」に帰着するゲームは楽しくない。「《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を倒すための数少ない回答札の一つを持っているか?」でゲームが決まるのも楽しくない。つまりPWは楽しい存在になれるが、極めて強力なPWはほぼ確実に楽しくはなれないのだ。そして最近は(既に述べた理由により)僕らはもっともっと超強力なPWを目にしている。
解決策
PW問題への解決策に入る前に、いくつかの選択肢は既に利用不可能なのではないかという前提に触れるべきかもしれない。例えば、セールスポイントであり推しカードでもある「看板PW」を取り除けば問題は解決するかもしれないが、ウィザーズがその案を受け入れるとは考えにくい。良くも悪くも、ウィザーズにはマジックをX-MENやトランスフォーマーのようなフランチャイズにする計画があり、この計画には各セットに最も重要なカードとしてのPWがあることが不可欠なんだ。PWがゲームプレイに悪影響を与えないようにするために、ウィザーズが包括的目標を巻き戻すなんてことはないだろう。また、これは特定のPWにだけ当てはまる話じゃない。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を少し弱くするのにそこまで意味はない。なぜなら僕たちが持ち合わせている情報を統合すると、これからも当分の間は看板PWの大行進は続くだろうからね。なので個別のPWを「手直し」しても、ウィザーズはマーケティング及びセット販売のためにPWを推し進める必要があるという根本的な問題は何も解決しないわけだ。
もう一つの前置きとして、PWを神話レアから単なるレアに降格するというのがあり、確かにこれは価格を抑えてはくれる(良いことと言える)だろうけど、それはPWがゲームプレイにもたらしている問題に関しては何の影響もないんだ(《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がレアになってもその強力さや詰まらなさは神話の時と何も変わらない)。しかし実現可能な解決策がないわけではないんだ。
その1:プレインズウォーカーを「少し」弱くする
そうそう、前の章で言い忘れたんだけど、PWを弱くするのも同様に現実的な解決策とは言い難い。というのも、ブランド及びマーケティング目標を達成するために、PWはプレイされ見かけるようにならないといけないからね。しかしながら僕は、PWがあまりに強力過ぎてウィザーズのストーリー/マーケティング目標を助けるのではなく、害するようになる転換点があると信じている。人々がFNMやグランプリ/SCGのカバレージで看板PWを見るようにするというのはウィザーズにとって素晴らしいことかもしれないが、一方であまりに多く目にする機会があると、プレイヤーはそういったPWカードを嫌いになり(もしくはカバレージを読むのをやめFNMに皆行かなくなる)、それはウィザーズが望むところではないだろう。なので、ウィザーズはPW開発に関して、単に高みを狙い過ぎているのかもしれない。「明らかに疑いの余地なくスタンダードの定番」を目指した結果、最終的に息苦しく多様性のない醜い化け物のようなメタに辿り着くのではなく、おそらく目指すべきは「スタンダードでプレイアブル」なのではないだろうか。そうすればカードが多少強すぎたりしても、それは壊れではなくスタンダードの定番になる程度で済む。やはりウィザーズは今一度ストーリーや販売目標を達成するためにPWが――たとえ看板PWであっても――壊れているほど強力である必要はないという事実を受け入れる必要がある。
その2:恒常的なプレインズウォーカーヘイトカードを
スタンダードに対応カードを戻すことについて色々書きたい気分だよ――多分やり過ぎなくらい。特にウィザーズが脅威と対策の振り子が脅威の方に傾き過ぎているから、それを戻すべきだと気付いたと表明したことを考えるとね。しかし今回は少々事情が異なる。普通の「脅威が強すぎて回答が弱すぎる」という主張ではなく、スタンダードに常に特定の回答札があるように、という嘆願だ。ウィザーズは別にPW中心のストーリーを変更したりPWを著しく弱体化させるつもりはないだろうから、最も簡単なPW問題の解決策は、常にPW(マジックにおいて最も強力なカードタイプ)に対処できるカードがスタンダードにあるようにすることだ。
現在のスタンダードにおけるPW問題は通常よりもはるかに酷い。なぜならPWへの回答がマジックの歴史上類を見ない程弱いんだ。火力呪文は2マナ(のソーサリー)なのに3点しか与えられず、《破滅の道》も同様にソーサリーだ。優良火力呪文(赤がPWに対処するには良い選択肢だ)や《英雄の破滅》を戻せば部分的な解決策にはなりえるだろうが、PWは現在あまりも大きな役割をゲームプレイにおいて果たしているため、特定の色だけに少しの対策を与えるだけでは十分に改善されたとは言い難い(例えば《英雄の破滅》だけでは、黒を使わなければ《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を倒せなくなるというだけで、デッキ構築の制約が加わったに過ぎない)。
本当に必要なのは、強力でかつ無色の回答が常にスタンダードにあるようにすることだ(「どうやって」そういったカードをスタンダードに常駐させるかは、基本セットが終了したので、少々込み入っているが、《否認》のことを考えれば不可能ではないだろう)。個人的にはスタンダードに《真髄の針》を戻す案に賛成したいが、ウィザーズは(特定のメカニズムを支援するために)この類の能力は避けたいんじゃないかと思う。だからPWしか指定できない《真髄の針》ならどうだろう?「カード名を1つ指定する」の代わりに「プレインズウォーカー・カードを1つ指定する」にする以外は文字通り全部同じテキストでね
PWにはまだまだ手を付けられていないデザイン領域があるから、それを変える必要がある。もしウィザーズがこれからもPWを最重要カードとしてプッシュしていくつもりなら、同時に「プレインズウォーカー」を対象に取れる《飛行機械による拘束》や《停滞の罠》のようなカードや、PWも一緒に流せる全体除去も増やすべきだ。もしくは、適切なマナコストで「もしプレイヤーがプレインズウォーカーの忠誠カウンターを加えるならば、代わりにそれと同じ数の忠誠値カウンターを取り除く」みたいな効果の黒エンチャントなんてどうだろう?基本的に僕らはPWの「強い」面ばかり見てきたし皆それの凄まじい性能については嫌と言うほど分かっていると思うが、同様に「弱い」面にについても目を向ける必要がある。他のカードタイプは全部、面白くかつ十分な回答があるわけで、PWも同じであるべきだ。
その3:プレインズウォーカーの数を減らせ
『戦乱のゼンディカー』はストーリーをほぼ独占的にPWに焦点を合わせて MTGの物語に大きな変化をもたらしただけでなく、目にするPWの数を一気に増やした。『アラーラの断片』から『タルキール』ブロックまでは、大型エキスパンションには平均2.45人のPWがいた。もし『アラーラの断片』を除外すれば(『アラーラの断片』には諸事情により4人ものPWが収録されている)、平均2.3人まで落ちる。一方で、小エキスパンションの平均PWは1人未満となる(ほぼ全ての小セットにはきっかり1人PWが収録されているが、『アラーラ再誕』だけは1人もいないため)。『戦乱のゼンディカー』からの大エキスパンションのPW平均は4人で、小エキスパンションは2人だ。各セットの数が約2倍に膨れ上がっているわけだから、大きく増加していると言っていいだろう。さらにこれは『プレインズウォーカーデッキ』のPWはカウントしていないので、正確にはさらに多いことになる。
これほどにPWが多いとキャラクターやカードとしての特別感が損なわれるし、実際ゲームプレイにおいては既に起こっている。PWを初めて見た時はとてつもなくワクワクしたし、PWとの蜜月はその後数年続いたんだが、単に毎年多くのPWを出したというだけの理由で、今やすっかり輝きを失ってしまった。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のように猛烈にプッシュされているPWでさえ、『ローウィン』の《ジェイス・ベレレン》や《野生語りのガラク》ほどにはワクワクしない。
理想を言えば、ウィザーズはPWの印刷数を『戦乱のゼンディカー』前のレベルまで落とすべきだろう(大セットに2人、小セットに1人)。こうすればスタンダードがPWで溢れるようなことは避けられるだろうし、もしかしたらPWをまたワクワクさせてくれるカードタイプに戻せるかもしれない。
その4:使い道が限定されたプレインズウォーカーを作れ
これが最も実装される可能性が高い解決策かもしれない(勿論今回提示した解決策全てが採用されれば最高だけどね)。ウィザーズはゲームプレイとは関係のない理由によって強力なPWを刷る必要があるということは既に述べたね。これから述べることは矛盾してるように思えるかもしれないけど、強力なPWは必ずしも悪いことではないかもしれない。看板PWの多くに当てはまる問題点は、そのPWをキャストできるデッキなら漏れなく強力な働きをするということだ。《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、《反逆の先導者、チャンドラ》のようなカードは、色さえ合っていればアグロ、ミッドレンジ、そしてコントロールといった全てのデッキにとってベストなカードだという主張になんらおかしいところがない。この幅広い使い方ができる性能は、至る所でPWを見かけるようにしているだけでなく、これまでに語ってきた多くの問題――PWでなく他のカードをプレイするのが間違っている――に結び付く。
他方で僕らは、とても強力であるにもかかわらず特定のアーキタイプでしか輝かないPWがいることも知っている。《ボーラスの工作員、テゼレット》は最高の例だ。ざっと目を通しただけでもそれが非常に強力だと分かるだろう。しかし本当にそれの力を引き出すためには、多くのアーティファクトを擁した専用のデッキが必要になる。少なくとも《守護フェリダー》が来るまでは《サヒーリ・ライ》も似たようなものだった。多くのデッキがサヒーリには目もくれなかったが、特定のシナジー(《太陽のタイタン》のような)があれば《サヒーリ・ライ》はとても良いカードだった。これは《滞留者ヴェンセール》(ブリンク)や、《野生語りのガラク》(ランプ)、《群れの統率者アジャニ》(アグロ)、そして《悪夢の織り手、アショク》(コントロール)にも当てはまる。これらのPWは全て(紹介しきれなかった幾つかの他のPWも)、10点満点中8点のパワーはあるが特定のアーキタイプでしかその力を発揮しないんだ。なのでこれらのPWは環境を息苦しくしないし、スタンダードを歪めることもないし、使っても使われても楽しいんだ。これは僕ら全てのプレイヤーにとって良いことだ。加えて、カードパワーは十分なわけだから、こういったPWもまだウィザーズのスタンダードの収録基準を満たしているんだ。
結論
良くても悪くてもPWは今ここにいるわけだ。ウィザーズはマジックを一ゲームからフランチャイズブランドに変化させるためには、PWが最良と信じているわけだから、どちらかといえば、今後数年PWはますます重要になっていくと僕らは考えるべきだろう。古参はこの変化を嘆くだろうが(僕も時々そうなる)、ウィザーズからすれば全くもって合理的だし、ゲームプレイ外の目標を達成するには明確に最良な方法でもある。
なのでウィザーズにはPWを正しく扱うこと求められている。僕らプレイヤーにとってこれが如何に重要かはこれまで述べてきたが、同時にウィザーズにとっても重要であるわけだ。最終的に顧客の大部分が、ウィザーズにとっての最重要キャラクターを嫌いになってしまえば、目的達成の真逆をやっていることになるわけだからね。ありがたいことに妥協点はある。ウィザーズが、スタンダードと実際のゲーム体験を破壊することなくセット売ったり、映画を製作するために強力なPWを刷り続けることは可能だ。(今一度思い出してほしい。ゲームプレイはMTGというブランドの根幹だ。マジックが楽しくなくプレイに耐えるものでなければ、だれも気にかける者がいなくなり、映画もTシャツも物語もその他もろもろ全部お釈迦だ)。単にPWを飽きさせないためにPW全体の数を減らしたり、PWに干渉できる方法を増やしたり(これがスタンダードに常にあるということも重要だ)、PWを色が合えば即採用されるような使い道の広い強力なカードから、特定のデッキじゃないと上手く扱えないように使い道は制限されているが条件が合えば依然として強力なデザインにしたりすればいいんだ。
ともあれ、今回はこれで終わりだ。君はどう思った?PWが好き?PWは未だにワクワクするカードタイプかな?それともPW疲れを経験済み?PWの数についてはどう思う?カードパワーは?もしPWに問題があると思うなら、僕らプレイヤーのみならずウィザーズも満足させられるような他の解決策は何かあるだろうか?(PWを消去したり、レアやアンコモンに降格したり、PWの価値を下げるためにストーリーを変更したりしても、ウィザーズからすれば考慮するに値しないんだ。僕らの意見が真面目に受け止められるようにするためには、批判やフィードバックを送る際には、僕らはウィザーズの目指しているところを考慮しなきゃいけない。)是非コメント欄で教えてほしい。もちろんいつものように、Twitter @SaffronOlive もしくはSaffronOlive@MTGGoldfish.comに送ってくれても構わないよ。
翻訳終わり
コメント
マジお疲れ様でした
「無能がなせる奇妙な巡り合わせ」は草生えました
金魚の真面目な記事は比較的長いことが多いですが、今回は輪をかけて長かったですね。途中から翻訳データ消えたら嫌だな、とか余計なこと考えてました。
>くーさん
根源的な問題から逃げずにキチンと向き合っていてすごいですよね。
件のフレーズはあまり上手い訳じゃないな、と思って平易な文に直そうとしたんですが、どことなく詩的だったのでそのままにしました笑
>シグマ@dj-SIGMAさん
ジェリースプリンガーショーはリアリティ番組風プロレスといったところですね(文字通り取っ組み合いになることも多いみたいですし)。サッと見る程度ならそこそこ面白そうです。見続けていると脳みそ溶けそうですが。
・エキスパンションだけ見ればたしかに大型2.3枚小型1枚だけど、基本セットに5枚収録されて年10枚なのを忘れてる
この2つが突っ込み所かな
>リリアナは異界月の看板
自分もリリアナSOIは「?」って思いました。敢えて言うならSOIの看板はジェイスかアーリンあたりでしょうが、どうもパンチが弱い感は否めませんね。セスも同じことを考えて意図的に間違えたのか、本当に素で勘違いしていたのか……
>基本セットに5枚収録されて年10枚なのを忘れてる
こちらは自分もすっかり失念していました。それを踏まえて改めて考えると、(デザイン領域を狭める以外は)数はそこまで問題ではないということになりそうですね。